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なぜ今、平屋が選ばれているのか

2025/09/22

富田友菜

ここ数年、注文住宅の分野で「平屋」が再び注目を集めています。かつて平屋といえば、地方や郊外に広い土地を持つ家庭の住まいというイメージが強く、都市部では二階建てや三階建てが主流でした。しかし最近は都市部でも「あえて平屋を建てたい」と考える人が増えています。なぜ今、平屋が支持を得ているのでしょうか。その理由を暮らし方や社会の変化、設計面の工夫などから探ってみます。

■ 1. ワンフロアで完結する快適さ

平屋最大の魅力は、生活動線のシンプルさにあります。階段がないため移動がスムーズで、掃除や洗濯、料理といった日常の家事効率がぐっと上がります。

例えば二階建ての場合、洗濯機は1階にあっても物干しスペースは2階のバルコニーというケースが多く、洗濯物を持って階段を上り下りする負担があります。平屋なら洗濯動線をすべてワンフロアで完結でき、家事時間の短縮につながります。

子育て世代にとっても大きなメリットがあります。小さな子どもを抱えて階段を昇り降りする必要がなく、転落の危険もないため安心。リビングや子ども部屋が同じフロアにあることで、常に目が届きやすい環境をつくれます。

さらにシニア世代にとっても平屋は魅力的です。将来的に足腰が弱くなったとしても階段がないため、暮らしを制限されることがありません。実際、リタイア後に二階建てをリフォームして平屋風に改修する人も増えています。

■ 2. 家族との距離が近づく

平屋は上下階の仕切りがないため、自然と家族の気配を感じやすい住まいです。二階建てだと「子どもは自室にこもり、親はリビング」というように生活が分断されがちですが、平屋は全員が同じフロアで過ごすため、家族間の距離がぐっと縮まります。

例えば、リビングダイニングを家の中心に据え、周囲に個室を配置する間取りにすれば、家族が自然と顔を合わせやすくなります。子どもが勉強していても、親が料理をしていても、同じフロアにいる安心感があります。プライベートを確保しながらも、孤立しない関係性を築けるのです。

現代は「家族の時間を大切にしたい」という意識が高まっています。リモートワークが増えたこともあり、以前よりも家で過ごす時間が長くなったからこそ、「つながりを感じられる住まい」が求められているのです。

■ 3. 開放感と自然とのつながり

平屋の大きな魅力のひとつが、外とのつながりを感じられることです。リビングから庭へと続くウッドデッキ、中庭を囲むコの字型の間取り、大きな窓を設けて光と風を取り込む設計など、平屋は屋外空間と一体化しやすい特徴があります。

二階建て住宅ではプライバシーの確保や隣家との距離の関係で窓の位置に制約が出ることがありますが、平屋なら外構と一緒に計画することで「内と外がつながる暮らし」を実現できます。

特に中庭は人気の要素です。家の中心に光庭を設ければ、プライバシーを守りながら光や風をたっぷり取り込めます。休日にはバーベキューや家庭菜園、ペットの遊び場など、多用途に活用できます。

リモートワークが広がった今、「家にいながら自然を感じたい」「心身をリフレッシュできる空間が欲しい」という声が増えています。平屋はそのニーズにぴったりの住まいだといえるでしょう。

■ 4. 災害や安全面への安心感

日本は地震や台風が多い国です。構造的に低重心である平屋は、二階建てよりも揺れに強いといわれています。地震の際に上階がない分、倒壊リスクが低く、耐震性能を高めやすいのです。

また、火災や緊急時の避難もスムーズです。どの部屋からでも直接外に出られるため、階段を経由する必要がなく、小さな子どもや高齢者にとっても安心です。

防犯面でも工夫がしやすいのが平屋の特徴。すべての部屋が1階にあるからこそ、窓の位置や外構計画を一体的に考えることで、不審者が侵入しにくい設計を実現できます。

■ 5. 注文住宅だからこそ広がる設計の自由度

平屋は二階建てに比べてシンプルな構造だからこそ、間取りの自由度が高いという利点があります。
• 大空間のリビングを中心にした「ワンルーム感覚の暮らし」
• 中庭を囲むコの字型・ロの字型の間取り
• 趣味の部屋やワークスペースを組み込んだプラン
• 勾配天井を活かしてロフトや小屋裏収納をつくる工夫

など、暮らし方に合わせて設計の幅を広げられます。

近年はデザイン面でも多彩な平屋が登場しています。伝統的な和風建築を現代的にアレンジした「和モダン」、開放的で明るい「カリフォルニアスタイル」、自然素材を活かした「北欧風」など、外観や内装の選択肢が広がっています。

■ 6. 土地選びとコストの考え方

平屋を建てる際に最も課題になるのが土地です。二階建てよりも広い敷地が必要になるため、都市部では土地確保が難しい場合があります。

ただし、郊外や地方では比較的土地の価格が抑えられるため、平屋の計画がしやすい傾向にあります。最近は「テレワークの普及により通勤を前提にしなくてもよい」という人が増え、郊外で広い土地を購入して平屋を建てるケースも増えています。

コスト面では、基礎や屋根の面積が増える分、二階建てより建築費が高くなる傾向があります。ただし将来的な修繕・メンテナンスのしやすさ、冷暖房効率の良さ、老後のリフォーム費用が抑えられることを考慮すると、長期的にはコストパフォーマンスに優れているとも言えます。

■ 7. 平屋人気の背景にある価値観の変化

平屋の人気は単なる住宅スタイルの流行ではなく、価値観の変化を反映しています。
• 「効率的な暮らし」=家事動線のシンプルさ
• 「家族とのつながり」=ワンフロアの安心感
• 「自然との調和」=庭や中庭とのつながり
• 「安全・安心」=耐震性・避難のしやすさ

これらは現代の住まいに求められる要素そのものです。特にコロナ禍以降、家で過ごす時間が増えたことが「居心地の良さ」や「安心感」を重視する流れを後押しし、平屋の再評価につながっています。

◆ まとめ

平屋は決して新しい住まいの形ではありません。むしろ古くから日本人にとって馴染み深い住まい方でした。しかし、ライフスタイルや社会環境が変わった今、平屋は「原点回帰」ともいえるかたちで再び注目されています。

シンプルで効率的でありながら、家族のつながりや自然との調和を大切にできる。そして老後まで安心して暮らせる。こうした特徴が、これからの住まいづくりに求められる要素と合致しているのです。

「階段がない」という一見単純な特徴が、実は暮らし全体を大きく変える。だからこそ今、多くの人が平屋を選び始めているのでしょう。

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